CES2026 報告書 VOL.3 (LVCC Campus Central Hall/CES Foundry)

視察最終日となる3日目は、AIが画面を飛び出し、現実世界で「身体」を持って躍動する「Physical AI(フィジカルAI)」の真髄に迫りました。

その象徴がNVIDIAです。医療、量子、物流といった全産業の「脳」として、現実を丸ごとシミュレーションし駆動する圧倒的なプラットフォームの姿がそこにありました。また、ソニー・ホンダの「AFEELA」やPwCの自律型エージェントなどは、AIが単なる道具を超え、人間と共生する「知能体」へと進化したことを告げています。

AIが「生成」のフェーズを終え、自律的に「行動」し始めた歴史的転換点。3日間の視察を締めくくる、実装元年の熱狂をレポートします。

LG

「Affectionate Intelligence」:AIで「幸せ」をデザインする未来の生活

LGは「Experience happiness with LG AI」を掲げ、AIを単なる処理技術ではなく、ユーザーの感情や意図に寄り添う「共感する知性(Affectionate Intelligence)」として定義しました。展示の至る所で、AIがいかに日常生活に溶け込み、目に見えない形で幸福度を高めるかという「Less artificial, more human」なビジョンが示されていました。

  • 次世代ディスプレイの進化: 注目を集めたのは、Wallpaper OLED TVの再定義です。9mmクラスの超薄型設計に「Hyper Radiant Color Tech」を搭載し、圧倒的な輝度と色彩を実現。また、新技術「Micro RGB evo AI」を搭載したディスプレイも初公開されました。これは長年の有機EL(OLED)制御技術を液晶のバックライト制御に応用したもので、AIがシーンごとに最適な光を操る「Micro Dimming Ultra」により、宝石のような鮮やかな発色と深いコントラストを両立させています。
  • パーソナルな視聴体験「StanbyME 2」: 人気の移動式テレビ「StanbyME 2」は、32インチ4K UHDへと大型化。特筆すべきは「Voice ID」によるパーソナライズ機能です。AIが家族それぞれの声を識別し、話しかけるだけでその人専用のホーム画面に切り替わるなど、リモコン不要の直感的な操作感は「技術を意識させない」最高峰のUXを提供していました。
  • AI HOMEとモビリティの融合: 「Ride in Tune」をテーマにしたモビリティエリアでは、車内を「動くリビング」に変えるソリューションを展示。AIが乗員の状況を察して最適なコンテンツを提案する車載ディスプレイは、まさに家の中の「AI HOME」がそのまま移動空間に拡張された形です。さらに、イノベーションアワードを受賞した「LG CLOiD」などのAI家電群は、5Gで繋がる「AI Core-Tech」により、家事の自動化を超えた「先回りするおもてなし」を具現化していました。

TDK

「In Everything, Better」:AIを現実に繋ぐ、デジタル社会の「神経」と「筋肉」

TDKは今回のCESで、AIを物理的な世界と相互作用させる「Physical AI(フィジカルAI)」をテーマに掲げ、新ブランドタグライン「In Everything, Better」を体現する圧巻の展示を行いました。

ブースの主役は、ポルシェ・モータースポーツ(フォーミュラE)との提携を象徴するフルスケールの走行シミュレーターです。シートに座ると、極限のレース環境が超高精細な映像と精緻な振動フィードバックで再現され、プロレーサーさながらの圧倒的な没入感に包まれます。この「究極の体験」の裏側を支えているのが、TDKが誇るTMR位置センサーや高電圧コンタクタです。過酷な重力や熱に耐えながら電力と挙動をミリ秒単位で制御するこれらの技術は、そのまま次世代EVやADAS(先進運転支援システム)の安全性と精度に直結しており、同社の技術がモビリティの未来をいかに底上げしているかを強烈に印象付けました。

また、B2Bの「黒子」としての実力も際立っています。新会社「TDK AIsight」が発表した超低消費電力DSP「SED0112」は、視線による意図追跡を最小限の電力で実現。これにより、スマートグラスは「重いデバイス」から「普通のメガネ」へと進化し、常にAIが視界をサポートする日常を可能にします。AIを「頭脳」とするなら、TDKはそれを現実に繋ぐ「神経(センサー)」と「筋肉(アクチュエーター)」を提供しています。素材からコンポーネント、エッジAIまでを垂直統合で手がける同社の展示は、AI時代の不可欠なインフラ企業としての地位を再定義するものでした。

TDKの展示は、私たち一般消費者の目には見えないところで、どれほど高度な技術が「当たり前の日常」を支えているかを痛感させるものでした。

BOSCH

「Smart ALL-in-one」:AIが家事の「ノイズ」を消し去る未来

BOSCHは今回のCESで、AIと家電を完全に融合させたコンセプト「Smart ALL-in-one」を披露。複雑な操作や無駄な待ち時間を排除する「Less clutter(散らかりを減らす)」という思想を、キッチンからランドリーまで一貫して提示していました。

最も印象的だったのは、最新のAIオーブンを中心としたスマートキッチンです。AIが約80種類の食材を正確に認識し、最適な調理モードを自動提案するだけでなく、人気が高まっている「Air Fry(ノンフライ)」機能を統合。さらに「Bosch SpeedBoost」技術により、従来の2倍の速さでお湯を沸かす実演は、時短を求める現代のライフスタイルに直結する驚きがありました。「お湯が2倍速く沸く」という具体的かつパワフルな解決策が、来場者の大きな関心を集めていました。

また、掃除機や冷蔵庫もAIによって「状況判断」を行うデバイスへと進化。床の汚れ具合に応じて吸引力を自動調節する掃除機や、食材の鮮度をカメラで監視し、最適な冷却スケジュールを組む冷蔵庫など、ユーザーが意識せずとも「常にベストな状態」が維持される体験は、まさにAIが家事のノイズを消し去る様子を体現していました。

BOSCHの展示全体から感じたのは、AIを誇示するのではなく、あくまで「生活の効率化と快適さ」を下支えする道具として洗練させている点です。ハードウェアの信頼性と、それらを繋ぎ合わせる「Home Connect」のエコシステムにより、家全体がひとつの知能として機能する、極めて現実的かつ高品質なスマートホームの姿が示されていました。

Panasonic

「The Future We Make」:家電から「社会の最適化」へ舵を切るパナソニックの覚悟

パナソニックは今回、ブランドの象徴である家電製品の単体展示をあえて行わず、AIインフラと循環型経済(GX)に特化した「The Future We Make」を提示しました。展示は「B2B」「AIインフラ」「GX」の3エリアで構成され、同社が「モノを作る企業」から「社会課題を解決するシステムプロバイダー」へ変貌を遂げようとする強い意志を感じました。

最も印象的だったのが、Blue Yonderのソフトウェアと現場のカメラ・センサーを高度に連携させた「サプライチェーンソリューション」です。AIが工場の稼働状況をリアルタイムで把握し、従来は多数のスタッフが必要だった複雑な工程を、わずか1人で管理・制御可能にするデモが行われました。これは人手不足に悩む製造現場にとって極めて現実的な福音であり、「Safeguard, Live, Optimize」というコンセプトが、いかに働く人の負担を減らし、生産性を最大化するかを具体的に示していました。

環境面では、2028年度の実用化を目指す「自動家電分解システム」が目を引きました。分解が困難な洗濯乾燥機などをロボットが精緻に解体し、樹脂や金属を極めて高い純度で分離・回収します。単なるリサイクルではなく、回収素材を再び製品へ戻す「再々エコノミー」の実現に向け、設計段階から分解性を考慮したモックアップも展示。資源を循環させるための「設計と解体の垂直統合」こそが、次世代の製造業のスタンダードになると予感させる、非常に密度の高い展示内容でした。

今年のPanasonicは「家電の展示を一切行わない」という大胆な戦略をとり、社会の裏側を支えるB2Bソリューションと持続可能性(GX)に完全に振り切った展示内容が非常に印象的でした。

Hisense

「AI × 大画面エンターテインメント」:ワールドカップを支える次世代の主役へ

Hisenseは、FIFAワールドカップ2026の公式スポンサーであることを最大限に活用し、スポーツ観戦を劇的に進化させる「AI TV」と「スマートホーム」の融合を披露しました。

最大の目玉は、世界初公開の116インチ超大型テレビ「116UXS」です。新技術「RGB MiniLED evo」を搭載し、従来の赤・緑・青に加え、業界で初めて「スカイブルー・シアン」の第4色LEDをバックライトに採用。これにより自然界に近い圧倒的な広色域(BT.2020比110%)を実現しています。AIが試合の劇的な瞬間をリアルタイムで解析し、選手の動きや芝の質感を最適化する様子は、まさに2026年のワールドカップ観戦に向けた決定版と言える仕上がりでした。

また、生活を支えるAIロボティクスも充実していました。31の自由度を持ち、人間のように滑らかな対話を行うヒューマノイド「Harley」や、家庭内を自律走行して家電操作を行う「Beta」など、複数のロボットを実演。テレビを家の司令塔(ハブ)とし、AIが物理的に家事をサポートする「AIコネクテッド・リビング」を具体的に提示しました。技術力とブランド価値の両面で、競合他社を猛追する凄まじい勢いを感じさせる展示でした。

今年のHisenseは、単なる「安価な大型テレビのメーカー」という従来のイメージを完全に脱却し、最新のAI技術と世界最高峰のスポーツイベントを掛け合わせた「グローバルブランド」としての力強い進歩を示していました。

TCL

「Inspire Greatness」:ディスプレイの極致とAIスマートリビングの融合

TCLは今回のCESで、超大型・高精細ディスプレイのパイオニアとしての地位を誇示するとともに、AIを活用した「人・モビリティ・住空間」のシームレスな統合を披露しました。

次世代Mini LEDの到達点「SQD-Mini LED」: 展示の目玉は、従来のMini LEDを大幅に進化させた「SQD-Mini LED」搭載のフラッグシップモデルです。光の制御をより精密に行う「Precise Dimming Series」により、OLEDをも凌駕するピーク輝度と長寿命、そして豊かな色再現性を実現。会場を埋め尽くす115インチなどの超大型画面が、圧倒的な没入感で来場者を釘付けにしていました。

目に優しいAIタブレットとARグラス: モビリティと生産性のエリアでは、紙のような質感で目に優しい「NXTPAPER」技術を搭載した最新タブレット「TCL Note A1 NXTPAPER」が登場。AIによる最適化と反射を抑えた画面は、電子ノート(eNote)としての完成度が非常に高く、デジタルとアナログの融合を高いレベルで実現しています。また、世界初のHDR10対応ARグラス「RayNeo X3 Pro」は、コンパクトな筐体に強力なAI性能を収め、視界に直接情報を重ねる次世代のインターフェースを提示していました。

暮らしを彩るAIコンパニオン「AiMe」: スマートホーム分野では、AIコンパニオン「TCL AiMe」を中心としたエコシステム「NXTHOME」を展開。家族の好みに合わせた空間演出や、外出時の見守り(パトロール)機能を備え、AIが単なる道具から「感情の架け橋」へと進化している様子を具体的に示しました。

ソニー・ホンダモビリティ:AFEELA

「知性を持つモビリティ」:エンターテインメントが加速させる移動の未来

ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」は、単なる電気自動車(EV)の枠を超え、高度なAIとエンターテインメントが融合した「走る知能体」としての進化を見せつけました。

展示のハイライトは、AIとセンサー技術を駆使した「空間のパーソナライズ」です。車外に設置された「メディアバー」は、近づくユーザーを検知して挨拶や充電状況を表示し、車との対話を演出。車内に乗り込めば、パノラミックスクリーンにEpic Gamesの「Unreal Engine 5」を用いた高精細な3Dグラフィックスが広がり、現実の走行風景にARナビゲーションが重なる次世代の視覚体験を提供していました。また、ソニーの十八番である立体音響技術が各座席を包み込み、車内は完全にプライベートな「移動するシアター」へと変貌を遂げています。

走行性能においても、ホンダの車両安全技術とソニーのイメージング・センシング技術が高度に統合。多数のセンサーによる全周囲監視とAI判断により、安全性を担保しながら、乗員がコンテンツに没頭できる「ゆとり」を生み出しています。AFEELAが目指すのは、目的地に着くための手段ではなく、移動そのものを「クリエイティブな時間」に変えること。ハードとソフトの垣根を越え、人の感性に呼応するモビリティの新しいスタンダードが示されていました。

RICTOR

「空飛ぶ乗り物」の未来を象徴する個人用eVTOL(電動垂直離着陸機)です。

ヘリコプターのように垂直に離着陸し、ドローンのように4軸8枚のプロペラで安定して飛行します。 今回発表された最新モデル「X4 Air Mobility Pod」は、約4万ドル(約600万円)という、航空機としては破格の安さが大きな話題となりました。

  • 免許不要の衝撃: 米国の超軽量航空機(Part 103)規格に準拠しており、パイロット免許なしで誰でも手軽に空へ飛び立てる設計です。
  • 直感的な操作: 自動離着陸やルート計画機能を備え、ジョイスティックひとつで「ホップ・オン(飛び乗る)」感覚の移動を可能にします。
  • 利便性: プロペラを折りたたんでコンパクトに収納でき、ピックアップトラックに載せて持ち運ぶことも可能です。

「空を飛ぶ」ことがもはやSFではなく、個人が楽しむ「新しいレジャー」や「次世代の通勤手段」として現実味を帯びてきたことを実感させる展示でした。

Vuzix

AI搭載の「Ultralite Pro」やHimax社と共同開発した最新リファレンスデザインを披露しました。最大の特徴は、0.79gという驚異的な軽さの光学エンジンです。これにより、度付きレンズにも対応した「一日中快適に装着できる普通のメガネ型AR」を実現。AIが視界の情報を瞬時に解析し、ズームやコントラスト調整で視覚を拡張する「実写とデジタルの融合」が、量産可能なレベルまで進化していました。

Dreame

「自宅まるごと」AI化。掃除機メーカーから総合家電の巨人へ

Dreameは「自宅まるごとスマート化」を掲げ、50点超の新製品を披露。ロボット掃除機の枠を超え、キッチン、ランドリー、エンタメまで網羅する統合システムを初公開しました。

目玉は、AIロボティックアームを搭載した温水床洗浄機や、業界最薄のロボット掃除機「X60 Max Ultra Complete」です。さらに、AIインバーター洗濯機やオーブン、炭酸水ディスペンサー付き冷蔵庫まで一挙に展示。これら全てが一つのAIアルゴリズムで連携し、家事の自動化を究極まで突き詰める姿勢は、総合家電メーカーへの完全なる変貌を感じさせました。

CHiQ (長虹:Changhong)

「AI大画面」の先駆者。生成AIで「会話するテレビ」を具現化

中国の大手家電メーカー・長虹のブランドであるCHiQは、独自の生成AI基盤を搭載した最新のAI TVを披露。従来の音声操作を超え、視聴者の好みを深く理解して対話形式で番組を推薦したり、複雑な質問に答えたりする「パーソナル・アシスタント」としての機能を強調しました。また、100インチ超のMini LED TVや透明ディスプレイなど、中国メーカーらしいコストパフォーマンスと最先端技術を両立させた力強い展示が印象的でした。

CHANGHONG

「Panda Xiaobai」が繋ぐ家全体。リモコンがスマートホームの司令塔に

CHANGHONGは「AI Technology + Human-Centric Design」を掲げ、TVを中心とした家電連携を披露。特筆すべきは、TVリモコンから家中の家電を操作・管理できるエコシステムです。内蔵のAIアシスタント「Panda Xiaobai(パンダのシャオバイ)」がハブとなり、リモコンへの音声指示だけで冷蔵庫の温度調節や洗濯機の状況確認が可能。TVを「単なる映像機器」から「スマートホームの直感的な司令塔」へと昇華させていました。

PwC

「Agentic AI」:コンサルティングの知見が吹き込む、自律型AIの生命体

PwCのブースは、特定の招待客のみが立ち入れるクローズドな空間ながら、AIが単なる「道具」から「自律的なパートナー(エージェント)」へと進化する瞬間を鮮烈に提示していました。

  • ヒューマノイド・アシスタント「Alex」: 注目は、マルチモデルAIエージェントを搭載したヒューマノイド「Alex」です。PwCが開発した高度なソフトウェアを脳に持ち、テキストや音声、視覚情報を統合して理解します。単に命令を聞くだけでなく、状況を察して先回りする「自律性」を備えており、ビジネスの意思決定をサポートする実用的な「AIエージェント」としての完成度の高さを示しました。
  • 自律型バーテンダー「Kanpai」: もう一つの目玉は、生成AIをインターフェースに備えたロボットバーテンダー「Kanpai」です。客との自然な会話を通じてその時の気分や好みを汲み取り、最適なカクテルを提案・注文。ロボットアームが精密にドリンクを注ぐ一連の流れは、生成AIが単なるチャット画面を飛び出し、物理的なサービス提供まで完結させる「フィジカルAI」の可能性を体現していました。

PwCの展示は、AIエージェントを企業が安全に統合・管理するための「Agent OS」など、裏側のガバナンスまでを見据えたコンサルティング会社らしい厚みが際立っていました。

NVIDIA  at CES Foundry

「Physical AI」の覇者:現実をシミュレートし、産業の全領域を駆動する

NVIDIAは今回のCESで、AIが画面を飛び出し物理世界で「身体」を持つ「フィジカルAI(Physical AI)」という概念を主軸に据えました。複数のパートナー企業とのブース展開により、医療、量子、物流、金融といった全産業が、NVIDIAのGPUとソフトウェアの上で再定義される様子が示されました。

  • 医療の未来を担う手術ロボット「LEM」: ヘルスケアエリアで一際注目を集めたのが、LEM Surgical社との提携による次世代硬組織手術ロボットです。NVIDIAのロボティクスプラットフォーム「Isaac」上で稼働しており、AIがミリ単位の精度で執刀をサポートします。医師の「手」をデジタル化し、熟練の技能をAIが学習・再現することで、手術の安全性と成功率を飛躍的に高める「自律型医療ロボット」の先駆けとなっていました。
  • 量子計算への橋渡し「QCI連携」: 量子コンピューティングのセクションでは、Quantum Computing Inc. (QCI) などとの連携を通じ、NVIDIAが量子・古典ハイブリッド計算のハブとなる姿勢を明確にしました。「コンピューテーション・コミュニケーション・センシング」の三位一体を加速させ、複雑な量子アルゴリズムをNVIDIAのシミュレーション環境で走らせるデモを公開。 興味深かったのは、テトリスや数独のようなパズルから複雑な分子構造まで、AIが「簡単に成型(モデル化)」し、最適解を瞬時に導き出す実演です。これは、創薬や新素材開発における「探索コスト」をゼロにする革命を予感させました。
  • シミュレーションが生む「考える倉庫」とドローン: 物流エリアでは、巨大な「AI倉庫」のデジタルツインが展示されました。ここでは、ドローンや搬送ロボット、さらにはファイナンシャル・ロジスティクス(物流に伴う決済・資金流動)までが、一つのコンピュータ上で統合管理されています。 AIが数百万通りの動線や在庫予測を「現実より先に」シミュレーション(Simulate-then-Procure)し、最も効率的な解を現実のドローンや設備に命令する。もはや倉庫はただの建物ではなく、NVIDIAのチップを動力源とした「巨大な知能体」へと変貌を遂げていました。

NVIDIAはもはや単なる半導体メーカーではなく、現実世界を丸ごとシミュレーションし、あらゆる産業の「脳」を司るプラットフォームへと進化したことを印象づける内容でした。

総括:AIは「生成」から「行動」へ:フィジカルAIが書き換える現実世界のロードマップ

2026年のCESを総括するキーワードは、間違いなく「Physical AI(フィジカルAI)」「Agentic AI(自律型エージェント)」です。昨年までのような「AIに何ができるか」という実験的なデモのフェーズは完全に終わり、AIが「身体(センサー、ロボット、車両)」を得て、私たちの生活や産業インフラに深く、かつ自律的に介入し始めた、真の実装元年となりました。

1. 「知能化変革(IX)」の加速:家電からパートナーへ

LGの「Affectionate Intelligence」やBOSCHの「Smart ALL-in-one」に見られるように、家電はもはや個別のツールではなく、ユーザーの意図を汲み取る「伴走者(エージェント)」へと進化しました。リモコンやスマートフォンの操作さえ不要になり、声や気配、文脈をAIが読み取って先回りする体験は、デジタルが空気のように溶け込む「インビジブル・コンピューティング」の極致を示していました。

2. 「身体性」を得たAI:モビリティとロボティクスの融合

TDKの精密センサーやNVIDIAのシミュレーションプラットフォーム「Omniverse」は、AIが物理法則を理解し、現実世界で安全かつ精緻に動くための「神経」と「脳」を提供しています。ソニー・ホンダのAFEELAやRICTORの個人用eVTOL、さらにはPwCの自律型バーテンダーに至るまで、これら「動くもの」のすべてがAIエージェントのアウトプットデバイス(インターフェース)となりました。

3. 社会課題への「実用的回答」:GXとサプライチェーン

パナソニックが提示した「再々エコノミー」や、NVIDIA・TCLが描く「AIによる物流・製造の自律化」は、人手不足や環境負荷といった深刻な社会課題に対するテクノロジー側からの明確な回答です。AIを「見栄えのいい機能」としてではなく、持続可能な社会を支える「インフラ」として再定義する動きは、今後の企業の生存戦略を占う重要な指針となりました。

結び:日本企業の立ち位置と展望

今回の視察を通じて、NVIDIAのような米国のプラットフォーム勢と、LG・Hisenseといった中韓勢の圧倒的なスピード感と規模の経済を改めて実感しました。 一方で、TDKやパナソニック、ソニー・ホンダが見せた「素材・デバイスの信頼性」と「体験(感性)の設計」という日本独自の強みは、AIが物理世界に降りてくる「フィジカルAI」の時代において、不可欠なピースであることも再認識できました。

AIが画面を飛び出し、現実を動かし始めた2026年。私たちは今、「知能化」がすべての産業を書き換える歴史的な転換点の真っ只中に立っています。