コスト至上主義の終焉:次世代サプライチェーンを構築するLeeap Labsの挑戦ー2025年西海岸視察ツアー(3)
シリコンバレー在住20年の日本人起業家が、現代のサプライチェーンが直面する根本的な課題に挑んでいます。サプライチェーン・マネジメントのスタートアップ「Leeap Labs」の創業者である同氏は、地政学リスクや自然災害が頻発し、「平常」が仮定できなくなった時代において、従来のコスト最小化だけを追求するサプライチェーンモデルは限界を迎えたと指摘。リスクやESGといった新たな評価軸を組み込み、レジリエンス(強靭性)の高い次世代サプライチェーンを構築するためのソリューションを提供しています 。本稿では、同氏が語ったそのビジョンと戦略を詳説します。
第1章:課題意識 – 「平常」が仮定できなくなった時代のサプライチェーン
従来のサプライチェーンは、「平常時」を前提とし、「いかにコストを安くするか」という単一の目的関数で最適化されてきました 。その結果、生産拠点は人件費の安い中国などに集中しました 。
しかし、コロナ禍による物流の停滞、地政学的な緊張による航路の遮断など、「平常」が揺らぐ出来事が頻発する現代において、このモデルは極めて脆弱です 。『今までのコストだけを最小化しようとしたサプライチェーンはもう機能しない』と、同氏は断言します 。企業は、コストだけでなく、様々な不確実性(リスク)を織り込んだ、より多面的な意思決定を迫られています 。
第2章:Leeap Labsのソリューション – 「サプライチェーン・オーケストレーション」
Leeap Labsが提唱するのは、「サプライチェーン・オーケストレーション」という新しい概念です 。
これは、従来のように倉庫管理や輸送管理といった個別の領域(ブロック)ごとに最適なツール(ポイントソリューション)を導入するのではなく、サプライチェーン全体を一つの統合されたシステムとして捉えるアプローチです 。
例えば、ある拠点でミサイル攻撃や自然災害が発生したという情報をリアルタイムで検知すると、その影響がサプライチェーン全体にどのように波及するかを即座に計算し、新たな最適解を導き出します 。『一つの意思決定が、サプライチェーン全体に伝播してほしい』という思想に基づき、分断されたシステムを連携させ、全体最適を実現します 。この実現のために、サイバー空間に現実世界を再現する「デジタルツイン」やAIといった技術が活用されています 。
第3章:プロダクト – 意思決定を「多面的」にするシミュレーションツール
Leeap Labsのプロダクトは、企業のサプライチェーン担当者が、複雑な状況下で最適な意思決定を下すためのシミュレーションツールです 。
このツールは、サプライチェーンの全体像を可視化し、複数のシナリオを比較検討することを可能にします 。従来の「輸送コスト」や「在庫コスト」といった指標に加え、「自然災害リスク」や「ESGスコア」といった新たな評価軸を導入 。これにより、意思決定者は以下のような多面的なトレードオフを定量的に評価できます。
- シナリオA:コストは最安だが、自然災害リスクが高い 。
- シナリオB:コストは少し上がるが、災害リスクは低減できる 。
- シナリオC:ESGスコアは最も高いが、コストは大幅に上昇する 。
『なんとなく台風が来るよね、という定性的な話ではなく、これぐらいの被害が出ます、ということを定量的に見せてあげる』 。これにより、企業は勘や経験に頼るのではなく、データに基づいた戦略的な意思決定(プランBの策定など)を行えるようになります 。
第4.章:市場戦略 – 日米の「周波数」の違いとシリコンバレーの活用法
同氏は、サプライチェーンに対する課題意識について、日米で「周波数(感覚)」の違いがあると指摘します 。
- 米国企業:グローバルなサプライチェーンを持つ先進企業は、既にリスクやレジリエンスを重要な経営課題と認識しており、『周波数が合っている』状態です 。
- 日本企業:多くの日本企業は、まだコスト削減が最優先であり、『ESGだけではお金は取れない』のが実情です 。
この「周波数の違い」を乗り越えるため、Leeap Labsはシリコンバレーのエコシステムを巧みに活用しています。スタートアップのアクセラレータープログラムに選出されることで、自社から営業せずとも、プログラム側がPfizerやCostcoといった世界的大企業の意思決定者を連れてきてくれます 。これにより、質の高いフィードバックを得ると同時に、トップレベルのコネクションを効率的に構築しているのです 。
また、重要な成功事例として、ヤマト運輸の米国法人との協業を挙げています 。現地法人を実証実験の場とし、共に顧客を開拓していく「レベニューシェアモデル」を構築 。この成功が本社の目に留まり、日本本社からの発注につながるという好循環を生み出しています 。
質疑応答
質問: シリコンバレーにおける日本のスタートアップの状況をどう見ていますか? 回答: 正直に言って、厳しい状況です 。特にソフトウェアの分野では、「タイムマシン経営」という言葉があるように、日本で成功したモデルを米国に持ち込んでも、既に5年、10年遅れているケースがほとんどです 。メルカリほどの知名度と資金力をもってしても、米国市場にフィットさせるのは非常に難しい 。物理的な「すり合わせ」技術が競争力となる製造業とは異なり、ソフトウェアの世界では、市場の最上流であるシリコンバレーで生まれる情報の流れにキャッチアップし続けることが極めて重要です 。
質問: 日本の大学で講演するメリットは何ですか? 回答: 学生を採用したいわけではありません 。私の目的は、普段は絶対に会えないような企業のトップ(経営者)に効率的にアクセスすることです。大学の講義では、著名な経営者がゲストスピーカーとして登壇することがあります 。その機会を利用してコネクションを作ることで、我々のソリューションを購入してくれる意思決定者に直接アプローチする「高いところからのアプローチ」を狙っています 。個別にアポイントを取ろうとしても、一生会えませんからね 。
質問: なぜ今、資金調達を始めるのですか? 回答: これまで、私自身の前職(コンサルティング)での資産を投じて、自己資金(ブートストラップ)で事業を運営してきました 。それは、まずお金を払ってくれる顧客を見つけ、プロダクトが価値を持つことを証明したかったからです 。ヤマト運輸様との協業などで、そのフェーズはある程度達成できました 。しかし、顧客からの「この機能を追加してほしい」といった要望に応え、開発を加速させるためには、チームを拡大する必要があり、資金調達のフェーズに入りました 。コミットメントを示さないと、投資家の信頼も得られませんからね 。
